風前の灯火

個人的な沢登りの記録

【過去編②】赤谷川本谷 2016/9/17-18

先日の中津川で足を捻挫して山に行けないので過去編第二弾を書くことにする。

 

第二弾は赤谷川本谷である。これを遡行する2ヶ月前に湯檜曽川本谷に行った。湯檜曽川は沢登りを始めて間もない頃にその存在を知り、渓相の美しさに憧れ、「3級のスタンダード」とか「中級の登竜門」とか分かりやすいことを言われているから最初の目標とした沢である。その遡行はまあまあ満足の内容に終わり、谷川の沢の虜になった私は高倉沢、東黒沢、ナルミズ沢、白毛門沢と立て続けに通った。それらの沢は天気も良く快適な遡行だったが、その後、湯檜曽川のように大きな沢へ行きたいと思い赤谷川に行ったわけだが、それは雨と増水で苦しい遡行となった。

辛く苦しい遡行というのは、一際鮮烈な記憶として思い出に深く残るものである。

 

4人パーティ

遡行グレード 3級上(増水考慮)

9/17(土)  曇りのち雨

7:00川古温泉〜8:00入渓〜8:45マワット下ノセン〜9:10マワットノセン〜12:45裏越ノセン〜14:00ドウドウセン下〜16:30ドウドウセン上〜幕営

 

連日の雨に加えて土日も雨予報だったので増水が心配だったが、とりあえずマワットノセンまで行ってダメそうなら引き返そうということで決行。

 

16日深夜に前日入りして仮眠をとる(小一時間)。谷川岳ロープウェイの無料駐車場に1台をデポってもう1台で川古温泉へ。

 

17日から行動開始。
赤谷川林道~入渓点
川古温泉脇の林道ゲートから赤谷川林道に入り、入渓点まで約2時間の歩き。林道終点まで1時間、林道終点から毛渡乗越を徒渉点まで1時間。ヒルがたくさんいた。

 

②入渓点~巨岩帯
入渓して少し歩くとすぐにマワット下ノセン。増水しており、想像していたよりも凄い水量だったので右岸から巻き。そこはかとなく踏み跡があるのでそれほど高く巻かなくて済む。

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マワット下ノセン手前の淵。泳がなくても行けたような気がする。


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マワット下ノセン

 

マワット下ノセンを越えるとまたすぐにマワットノセンが現れる。これも右岸から高巻き。藪が濃くて疲れるが難しくはない。マワットノセンも下ノセンも登るつもりで来たのだが、水勢に恐れをなし安易に巻いてしまったことを少し後悔した。
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マワットノセン

 

マワットノセンを越えてしばらく歩くと巨岩帯に突入する。バカデカイ岩がゴロゴロしてる中に10m前後の滝がいくつもかかり、しかもだんだん急になってくるので、楽しいけど疲労する。
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谷がデカい

 

③裏越ノセン

巨岩帯を終えるといよいよ6段70m裏越ノセンのお出ましである。写真で見ていたよりも迫力がある。登攀ラインをしばし観察。直登は右壁を登ってバンドを落ち口にトラバースするのがセオリーのようだが我々はそんなレベルではないため左のルンゼから高巻きをする。
ガレルンゼを少し登ると、右手に踏跡らしきものが、左手にはルンゼの中の小ルンゼのようなものがある。ここで右側の踏跡を追っていき、ゴルジュの壁のてっぺん手前あたりの高さまで登ったところで右へトラバースする。この高さまでくるとちょうど滝の落ち口ちょい上くらいの位置なので右にトラバースしつつ下降を開始する。木と笹が頼りになるので結構心強い。トラバースを開始する位置が高すぎても低すぎてもダメなのでちょうどいい高さを見極めなくてはならない。
こんなかんじで裏越ノセンの大高巻きは1時間半で完了。

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裏越ノセン

 

④ドウドウセン
裏越ノセンをクリアするとすぐに核心のドウドウセンである。ドウドウセンは7段100mのゴルジュ滝だが、直登しない限りはその姿を見ることはなく、手前の扇沢から日向窪に詰めて高低差250mの超大高巻きをするしかない。
扇沢はドウドウセンのゴルジュ手前で右岸から流れ込む優しげな沢である。これを少し登ると2段CS滝が現れるが、その手前の右手に明瞭な踏み跡があるのでこれに入る。踏み跡は涸れ沢のようになっており、しばらく登り続けるとやがて右側に草付きのスラブが現れる。それを左から巻くと小尾根に乗り、その尾根をピークに向かってひたすら詰めるのだが、猛烈に濃い藪漕ぎとなる。ピーク手前の適当なところで右にトラバースし、隣の尾根に移ると、下にはドウドウセン最上段の釜と河原が見え、山肌は草付きスラブの景色になる。
この尾根沿いにスラブを下っていくと河原に降り立つことができる。
ドウドウセン大高巻きは藪漕ぎに時間がかかり、2時間半を要した。
河原に降り立ったのが16:30。ちょうどいい時間なのでここで幕とした。

さて焚き火だ!と薪を集めて火起こしに取り掛かった途端に雨が降ってきた。しかも強まる一方。迂闊にもツェルトを忘れてきたためタープを張ることもできず、結局焚き火を諦めて半ギレでテントに入り、ガスでチャーハンを炒めて全員18時に早々と就寝した。1日目終了。f:id:ponzu613:20210805141202j:image

側壁が高くなってきてドウドウセンの接近を予感する。


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ドウドウセン高巻き中。


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藪が激しい。


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ドウドウセン上の河原へ降りるところ。


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ドウドウセン上へ降り立った。ゴルジュ内を覗いて見ると、落ち口の無い釜が見えた。


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テンバに着いた途端に大雨!戦意喪失してさっさと寝た。

 

9/18(日) 雨

8:00出発〜14:00オジカ沢ノ頭〜16:15天神平ロープウェイ〜17:00ロープウェイ駐車場

 

⑤ドウドウセン上~ミニゴルジュ突破
朝6時起床、たっぷり12時間睡眠。しかし外は本降りの雨。一晩中降り続いた雨でだいぶ増水していた。ドウドウセン高巻きで下ってきたスラブの涸れ沢は普通に沢になっているし、周りの山肌にも昨日までなかった沢が何本も出現していた。昨日のうちにここまで来られてよかった…。
ドウドウセンを越えて仕舞えばそこから先は天国の河原歩きとの前情報だったので、増水してても行けるだろ、というか戻るのが不可能というわけで8時に出発。
しかし歩き始めてすぐにかなりの増水であることを思い知る。河原が全て水没して両岸いっぱいまで水流がある。左右いたるところから雨によって出現した沢が流れ込んでいる。後半最初の8m滝のゴルジュは濁流と化しており、壁は雨に濡れて「左から簡単に越える」どころではない。仕方なく右岸から巻くが、先が思いやられる。それでも進むしかないのだが、流れは強いし深さも増しているので渡渉を何度も繰り返し、やたら疲れる。沢が東へ向く手前に現れる最後のゴルジュは濁流と泡立つ釜に巻き込まれたらひとたまりもなさそうな感じで、右岸から巻いた。この巻きもほとんど垂直の壁に笹を頼りにへばり付き、二の腕のパンプに耐えながら滑るスタンスを探しつつトラバースする過酷な巻きで、ほんの数十メートル巻くのに1時間くらいかかってしまった。

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河原だったところは水没し、川幅いっぱいに水が流れている。


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歩き始めて5分の小滝。

 

⑥草原の沢~オジカ沢ノ頭
沢が東に向いてからはもう渡渉渡渉&渡渉で両岸を行ったり来たりしながらできるだけ浅くて水流の弱いところを攻めるのみ。
忠実に本流を詰め、最後のほうは小さなナメ滝を藪漕ぎしながら登り、赤谷川の水源を見たら腰くらいの高さの藪を漕いで稜線に詰め上げる。オジカ沢ノ頭に着いたのが14時。
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⑦オジカ沢ノ頭~谷川岳~天神平ロープウェイ

オジカ沢ノ頭~谷川岳肩の小屋が1時間程度。
肩の小屋~天神平まで天神尾根で1時間強。
ロープウェイ乗り場に16:15頃到着。雨のせいで期待していた天国の草原歩きもなく、ひたすら修行のようだった長く苦しい道のりの最後の最後でロープウェイという方舟に乗ることが出来て、本当によかった。下山17時過ぎ。

 

 

谷川連峰を取り巻く渓谷は赤谷川の他に湯檜曽川、万太郎谷、谷川本谷、宝川、大源太川などがあるが、スケールのデカさという点において赤谷川は随一である。本流には突破困難なドウドウセン、支流にも山域屈指の難渓とされるエビス大黒沢や、50m滝や120mナメ滝を擁する笹穴沢を持ち、色々と楽しめる谷になっている。

遡行当時は経験も浅く登れる滝も巻いてしまったし、雨と増水で天国の草原も楽しめず、思い出には残ったが悔いも残った。いずれドウドウセンも登れる技量を身に付けて、晴れの日に再訪したいところである。