時が経つのが早い。鷹ノ巣Cに行ったのがもう2年前だなんて。
もはや書かなくてもいいかと思っていたが、思い出深い沢だったので記憶があるうちに書いておこう。
4人パーティ
素行グレード 3級
快晴
5:00谷川温泉〜6:15ヒツゴー沢出合〜7:35鷹ノ巣沢出合〜7:45C沢出合〜16:30俎嵓稜線〜19:00-20:00肩の小屋〜23:00土合駅〜26:30谷川温泉(車回収)
※稜線到着から下山までのタイムは同行者の疲弊のため計画より大幅に遅れています。
那須の白水沢で沢デビューを果たした知り合いのTさんがまた沢に行ってみたいとのことだったので、紅葉スラブ登りで予定していた鷹ノ巣Cに誘って一緒に行くことになった。
結果的にこれは過ちだった。
彼女が悪いわけでは決してないのだが、彼女がスラブ登りがかなりの苦手であることを、我々はもちろん、彼女自身もその日その時までどうやら知らなかった。クライミングの経験があるし、白水沢でも普通に歩けていたので大丈夫と思っていたが、沢靴で無確保で特にスラブや草付きを登ることは非常な恐怖だったようで、結果としては怪我なく下山したが紙一重の危険に晒してしまったことは申し訳なく思う。特に詰めの草付きは本当に危険だった。
暗いうちに出発。

紅葉が見頃だった。
見事なモルゲンロート。
素晴らしい天気である。鷹ノ巣沢に入った。
B沢とC沢の出合。右のB沢はかなり貧弱な出合だが、こちらもなかなかの内容らしい。
そしていきなり始まるC沢のスラブ。これはすごい。初っ端から出し惜しみしない無限ハイライト系の沢だ。
本当に素晴らしい。こんな沢はなかなかないぞ。開放感は西ゼン以上。




序盤のスラブは余裕で二足歩行できるレベルなのだが、Tさんは恐ろしいらしく四足歩行でゆっくりと登る。絶品の沢に舌鼓を打つ他3人は口を合わせて「こんな良い沢なかなかないよ!」と必死に訴えて、ぜひとも一緒に感動して欲しいところだったのだが、それどころではなかったようだ。
しばらく登ると側壁が少し立ってきて滝が現れる。



巨大CSの滝。左の草付きスラブから登る。



この滝場の草付き登りも大変おっかなかったようだ。慣れていればどうってことない草付きだが、彼女はもう完全に景色どころではない。
時間は押しているが急かすことはできない。前後からフルサポートの陣形で必死に登ってもらった。

俎嵓の奥壁が近づいてきた。
この沢はここまでの楽しいスラブ登りだけ見ると2級程度の比較的容易な沢であるが、俎嵓直下の詰めが実にスリリングで、全体のグレードを3級に引き上げる要因となっている。
詰めで写真を撮る余裕が無かった。適当に登れそうなラインを見ながら詰めていったが、どこかで間違えたのかどこもああいうものなのか、本当にもう死ぬかと思う詰めだった。かなり斜度のきつい、岩の上に乗った泥に枯れたニラの草付き。滑落すれば死は免れない。
Tさんはもはや確保がないと文字通り一歩たりとも動けないといった様子で、一応ロープを繋ぎはした。しかしきちんと確保できる支点などほとんど無いに等しく、落ちれば2人共あの世行きだから落ちないでねというかんじなのだがそうも言えまい。全く生きた心地のしない時間だった。
俺はTさんの確保(?)に専念して、ルーファイはKくんと妻に任せていた。さっきまで心底ビビった様子で先頭を登っていた妻が突如として覚醒し、急に恐怖を全く感じなくなったかのようにルートを見出しガンガン登って稜線への道を拓いた。ギリギリ日没前に沢を抜けられた。
稜線の向こうに沈む夕日とアーベントロートに感動した。今日は感動しっぱなしだな。普通は日没前に下山まで終えるように行動するため、山頂で泊まったりしない限りこんなふうに夕日を見ることはないが、ときにこういう苦労の果に山の上から見る夕日は格別に心に残る。



夕日を眺め、ドローンの空撮もひとしきり終え、稜線上のヤブを歩く。踏み跡があって意外と歩きやすい。オジカ沢の頭に着く前に日は沈んだ。肩の小屋に向かっていると、小屋の前に人が立ってじっとこっちを向いているのが薄暗い中にぼんやり見える。近づいていくと段々その人影がはっきり見えてきた。山小屋の人が腕組みをして仁王立ちで我々を待っているようだ。怒られるな~と思った。ところが近くまで来ると飛んできたのは怒号ではなく、意外にも労いの言葉だった。
「おつかれ!どこから来たの?」
「鷹ノ巣C沢です」
「鷹ノ巣か~!こんな時間にあんな場所からヘッデンの明かりが見えるから何かなと思って心配してたんだよ。ちょっと休んでいきなよ」
良い意味での拍子抜けだ。
言われるがまま小屋に入り席に座るとなんと豚汁を出してくれた。泣きそうになりながらアツアツの豚汁を頂いていると、いかにもな雰囲気の老人が登場した。長年肩の小屋を管理している、この業界ではレジェンド的なお人のようだ。
その人は、最近は沢登りをする人が減ったし、まして鷹ノ巣沢から俎嵓に登ってくる人なんか滅多にいないから嬉しい、的なことを言っていて、他のレジェンドとの関係の話や、谷川岳に出る幽霊の話など饒舌に語ってくれた。君たちがテキトーな計画で無謀な登山をしただけの不心得者なら叱り飛ばすところだが、頑張ってる若者は応援するとも言ってくれた。いやなんか…なんかすみません。今日を振り返り、無謀ではなかったかと言われると何とも言えない。
身も心も温まる歓待に礼を言い、そろそろ下山の時間である。Tさんは疲労困憊のうえに膝を痛めたようで、谷川温泉までの距離を歩くのはしんどそうだった。そこで小屋の人にこの時間でもタクシーを呼んだら来るかと尋ねると、「多分来る」とのことなので天神尾根で下山し、そこからタクシーで谷川温泉まで戻る算段を立てた。
下山して、いざタクシー会社に電話すると、出ない。3社にかけたがどこも出ない。4つ目の会社は出てくれたが、そこまでは行けないと断られた。はっきりとは言わないが、こんな時間に冗談じゃねえというニュアンスを含む言い方だった。まあ仕方ない。時刻はすでに23時を回っているのだ。ここは東京ではない。
さて、一体どうしたことだろうか。途方に暮れて、とりあえず土合駅で休むことにした。なんならもうステビバでもいいかと思ったが、11月なので駅舎の中でもかなり寒く、シュラフも防寒具もろくに持っていないのでここで寝るのは無理だった。
こうなると残された選択は「車のある谷川温泉まで歩く」しかない。
土合から谷川温泉まで約10km。とんだ延長戦である。もう動けないTさんを土合駅に残し、3人で歩き出す。はじめはちょっと楽しかったが、すぐに強烈な眠気との長い戦いが幕を開ける。
残り2kmくらいの地点で妻がギブアップし、バス停に残置してKくんと2人で黙々と歩く。寝ながら歩いて、深夜3時近くにようやく車に戻れた。
バス停に置いてきた妻と、それから土合駅のTさんを回収し、道の駅水紀行館に戻ってゆっくり休んだ。
こんな具合で、下山後の延長戦も含めて、色々と思い出に残る沢だった。























































































