風前の灯火

個人的な沢登りの記録

中津川本流 2021/7/22-25

例年海の日に行っている夏の集中山行第7回。

今年は吾妻連峰が舞台となった。山行形態はもちろん沢登りであるが、吾妻の沢は大滝沢に行ったことがあるだけで、ほとんど初めてである。調べたところでは中津川・松川・塩ノ川が吾妻三茗溪と呼ばれており、それと上述の前川大滝沢が東大顚の北東面を流れている。地元の山岳会の記録や、沢登り主体の山岳会の記録などを読んだ範囲内では、これらの渓と松川上流のいくつかの支流を除いてはほとんど遡行記録を見つけられなかった。

今回はその中でも前々から行きたかった中津川へ行くことができた。

吾妻最難の呼び声高い松川にチャレンジしたい気持ちもあったが、松川は1泊で行ける。今回は4連休ということで2泊するチャンスなので、2泊要する中津川へ行くことにした。

 

遡行前夜に猪苗代まで行き道の駅で寝た。

翌朝始発で猪苗代駅に到着した先輩を回収し、中津川渓谷レストハウスに車をとめた。

 

5人パーティ

遡行グレード 3級上

1日目 7/22(木) 晴れのち曇(一時雨)

7:30中津川渓谷レストハウス〜7:45入渓〜8:50白滑八丁終了〜9:50魚止滝〜10:50取水口〜11:20銚子口〜12:30観音滝〜14:30権現沢手前C1

 

予報では4連休前半は天気があまりよろしくないようだったが、朝から快晴だった。到着時点で我々の他に誰もいなかったが、準備してる間にちらほらと観光客が、そして野良猫がやってきた。

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中津川渓谷レストハウス

 

出発し、中津川渓谷の石碑があるところから遊歩道を下る。
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5分くらい降ると入渓地点である。

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さすがに本流だけあって、水量は豊富である。デカい谷底を轟々と流れていて、大渓谷にやってきたなという感じがする。久しぶりの大渓谷である!

 

最初は平凡なかんじ。水はかなりきれい。
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しばらくすると白滑八丁の予兆のような側壁が散見されるようになる。
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白滑八丁のはじまり。巨大なU字溝の水際を歩ける。水線中央は結構深く、多分足は着かない。
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白滑八丁入口の3段釜

右から楽に登れた

 

3段釜を超えて少し歩くと突然ゴルジュのようになる(写真がない…)。侵食された花崗岩の隙間を凄い勢いで水が流れ、水線突破は無理。左岸の高台を巻くようにへつるのだが、これがヌメヌメで悪い。灌木があるからまだいいが、なかなかの怖さである。

高台の終わりは急斜面のスラブになっており、滑ると止まらず激流に飲まれる。運が良ければスタートからやり直せるかもしれないが、高確率で怪我するか、最悪再び浮かんでこれなさそうなので、どうしようかと振り返るとトラロープがあった。これを掴んで振り子トラバースすると丁度急斜面の下へ降り立つことができた。

白滑八丁の核心はここでは…??

 

あとは穏やかなナメ。ナメといっても水流中は泳ぎになるので、縁を歩く。40度くらいの角度になったりするが、ラバーがバチ効きなので難なく歩けた(フェルト勢はやや難儀していた)。
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途中泳いだほうが早そうなところもある。

フェルトで歩きにくい場合は泳ぐのもありだろう。

 

最後に核心と言われるCS釜が現れる。が、右岸からあっさり歩いてクリアできてしまった。

記録では左岸のヌメヌメっぽい急斜面をロープ出して悪そうにへつっているものが多かったが、右岸のほうが明らかに楽と思えた。まあ、水量や天気によるのかもしれない。

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核心CS釜。写っている黒いヌメヌメ壁をへつる記録が多いが、対岸の乾いたスラブのほうが圧倒的に歩きやすいと思う。

 

白滑八丁が終わると、大きな釜と河原になる。日も射して気持ちがいいので、クールダウン休憩である。
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程なくして魚止滝となる。少し手前から左岸巻き。この沢は基本的に"少し戻って左岸巻き"に徹することとなる。

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ゴルジュ状になったりするが、難しいところはない。

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ドンキーコング

 


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水が綺麗です。
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泳ぐヘビ

 


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泳ぐヒト

 

取水口の登場。左岸に魚道があり簡単に越えていける。なお、道はほぼ自然に還っているらしいがここからエスケープもできる。

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銚子口。右壁を快適にへつれる。f:id:ponzu613:20210729134300j:image
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日が射すとエメラルドグリーンに輝く。


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観音滝。原則通り、少し戻って左岸巻き。
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観音滝を越えると、少し小滝やゴルジュが出てくるが、それも終えると権現沢出合まで約2時間、延々とゴーロ歩きになる。長すぎて閉口する。

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権現沢出合の手前、左岸にナイスな幕適地があったので、少し早いがここまでとした(神楽滝〜熊落滝間にいいテンバは無い)。増水には耐えられないが、後ろに高台があるのでヤバくなったらそこへ逃げこめる。
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夜に上流部でまとまった雨が降ったようで、30cmくらい増水した。テンバでも少し降ったが、それ以上は増水しなかった。

 

2日目 7/23(金) 曇り時々晴れ

6:10C1〜6:30神楽滝〜7:20夫婦滝(神楽滝巻き終わり)〜7:30静滝〜8:00熊落滝(8:20高巻き開始〜10:00高巻き完了)〜10:45筋滝〜12:00朱滝(12:20高巻き開始〜13:10高巻き完了)〜14:10ヤケノママ〜15:30C2(1570m付近)

 

昨夜の増水が気になっていた。朝起きると水位は下がっていたが、水は濁っている。

この水の濁りは原因不明のまま源頭部に至るまで解消されることはなかった。

さて、2日目は大滝の大高巻きが連続する核心部の遡行となる。

権現沢を通り過ぎると、すぐに最初の大滝、神楽滝40mが出現する。

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美しい直瀑である。100mくらい戻り、左岸の小尾根から大高巻きをする。巻き道には薄く踏み痕がついており、途中ここが昔は道であったことを示す朽ちた標識や針金や鎖など出てきて、なんか安心する。尾根をずっと登っていると急に平坦になるので、そのあたりからトラバースを開始し、懸垂無しで夫婦滝の目の前に降り立つことができた。所要時間50分。

ちなみに神楽滝のすぐ右横にはいかにも登れそうな、これを登った方が早いのではと誘惑にかられるルンゼがあるのだが、これはフェイクである。ドロドロでボロボロの極悪ルンゼとのことなので取りついてはならない。

 

間を置かず夫婦滝10m。左壁を容易に登攀できる。
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少し歩くとまたすぐに滝が現れる。静滝15m。
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この滝だけ、珍しく右岸巻きとなる。右岸のいかにもなルンゼから取りつき、特に苦も無く巻けた。

 

側壁がそそり立ってくると、いよいよ熊落滝のお出ましである。今回個人的にいちばん楽しみにしていた滝でもある。

正直、感激した。滝を見て感動するなど久しぶりのことであるが、この滝は良かった。

見えている滝が熊落滝10mで、滝上で90度右折し、見えないところに不忘滝40m(60mとも)を秘めている。不忘滝は普通に巻くと残念ながら見ることはできないが、熊落滝は登れなくもなさそうなので、頑張って登れば見に行けるかもしれない。

要塞のような円筒状の岩の間を鳥が舞い飛び、そこに日が射して実にファンタジーな日本離れしたド迫力の光景を見せてくれる。写真では伝わらないが滝壺は水飛沫と瀑風が凄く、水際に立っているだけで全身びしょ濡れになる。男5人で少女のようにキャッキャとはしゃぎ、写真を撮ったり滝壺に入ったりして、20分くらいこの滝を満喫した。
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この荘厳な空間は一見の価値がある。個人的には朱滝より熊落滝のほうが好きだ。

この高巻きが、おそらく一番難しく時間もかかる。巻き道は熊落滝手前で右岸から流入する沢の対岸の小尾根である。その横にはこれまた登れますよと言わんばかりのルンゼがあるが、上部はヌメヌメで傾斜もキツいので取り付かないほうがいい。難しいと言っても神楽滝や他の滝と同様に尾根を登り、平らになったらトラバースし、見当をつけて下るというそれだけなのだが、岸壁が巨大すぎて下る位置を把握しづらいのである。あと藪漕ぎが猛烈。今回の沢行で結果的にこの高巻きでのみ懸垂下降でロープを使用した。所要時間1時間40分。

 

熊落のあとは地形図に滝マークのある小滝が2つほど出てくる。いずれも苦労しない。
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ほどなくして筋滝(三筋滝)20mである。

右壁を登れるらしいが、上部が難しいとのことなので我々はパス。左岸から巻いた。
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筋滝の上には名もなき10mくらいの滝がある。まとめて巻いたが、上から見たら登れそうだった。
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筋滝の巻きが終わると、突然ゴルジュになる。ここだけ地質が変わり、凝灰岩の世界。
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難しくはない。水量が多いと少し大変かもしれない。

 

そしてラスボスであり中津川最大の滝である朱滝のお出まし。60mの落差を真っ直ぐに、末広がりの姿で流れ落ちる様はまさしく正統派のラスボスというかんじで圧倒的存在感がある。そして朱滝の名の通り、下部のえぐれたハング部分は赤い(朱というより紅)土が露出している。

これも水飛沫と瀑風が凄まじく、いるだけでびしょ濡れになった。
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高巻きは例によって少し戻って左岸から。もう慣れたものだ。

これも激しい藪漕ぎを強いられるが、熊落より簡単で懸垂なしで終了。所要時間50分。

 

朱滝が終わるともうデカい滝はない。ヤケノママを見て核心部の終了を知る。
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ヤケノママ。硫黄の匂いがして、実際硫黄が採れる。蒸気をあげている所もあった。

 

ヤケノママを過ぎ、テンバを探す。途中物凄い大崩壊地帯があった。沢が埋まりそうなほどの崩壊っぷりだが、少しゴーロっぽくなっているだけである。水の力は凄まじい。
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ヤケノママから先、良さそうな場所はたくさんあるのだが、どこも土木工事が必要で今一つ魅力が欠ける。

 

1570m付近に平らでいいかんじの場所を発見した。この先も少し偵察したがあんまり無さそうなのでここで決定とする。ここも増水には耐えられないが、背後の森に避難できる。
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この夜は曇っていたが、月が出ていたようでとても明るかった。前日は寝不足だったので7時半くらいに寝たが、この日は10時くらいまで焚火を囲んでいた。このテンバで仲間の1人が何かの虫の猛襲を受け、右目が腫れて開かなくなった。

 

3日目 7/24(土) 晴れのち曇り

8:10C2〜8:25二俣〜11:00登山道〜11:50西吾妻山山頂〜13:00集合(天狗岩)〜16:30明月荘

 

3日目は歩くだけ。ひたすら粛々と歩く日である。景色は開けてきて気持ち良いが、岩の転がる河原歩きが続くので疲れる。
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西へ曲がるところの二俣。
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吾妻連峰の稜線が見えてくる。
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最後は湿原。
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やっと登山道に到着。
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この後、嘘みたいに狭い西吾妻山のピークをハントし、ここで集合はちと狭すぎるということになり天狗平で待つことにする。それほど待たずに大滝沢隊も到着し、無事集合となる。

記念写真を撮り、明月荘に向けて歩き始めた矢先、何でもないところで思いっ切り足を挫いてしまった。あーこれはやってしまったとすぐに分かった。何年か振りの捻挫である。幸い近くに水場があったので、そこで患部をキンキンに冷やし、テーピングと包帯で応急処置をしてもらった。その上後輩に荷物を持ってもらうという、いやもう情けない限り。ありがとうございました。

 

1日遅く出発した大滝沢隊により、こちらの車は滑川温泉に回してもらっているので、明月荘に泊まり翌朝滑川温泉に下山する。
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明月荘は二階建ての快適な避難小屋だった。管理をしているという地元のおじさん2人組に色々話をしてもらった。山小屋修繕のほか、麓で山形牛の牧場の管理をしたり、地質調査で2ヶ月くらい沢に籠ったり、手広くやっているらしい。楽しそうに語ってくれた。

明月荘からはその名の通り、明るい満月がよく見えた。

 

4日目 7/25(日) 晴れ

6:00明月荘〜10:30滑川温泉

 

最終日は下山だけである。

しかしダメな私は足を捻挫しているので、仲間に荷物を一部手分けして持ってもらうこととなってしまった。いや本当に申し訳ない。自分の荷物は自分で背負って下山まで完遂したかったが、自分が悪いので仕方がない。タフで優しい仲間に心から感謝である。
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そうして私のせいでペースが上がらず、コースタイム3時間のところをなんと4時間半もかかってしまった、、、

皆さんご迷惑をおかけしました。そしてありがとうございました。

 

この後、滑川温泉で4日分の汚れを流し、福島市内で焼肉を食って帰った。

 

 

吾妻のクラシックルートたる中津川、大変素晴らしい秀渓であった。著しく難しいというポイントはないが、体力、ルーファイ、読図で終始それなりのレベルを要求される。登れる滝はあまりないものの、美渓、圧巻の大滝と大高巻き、楽しさと緊張の共存する絶妙な難易度、2泊という長さ、全部相まって非常に満足感のある内容だった。今後、塩ノ川と松川も是非遡行してみたいと思う。特に松川が気になる。吾妻最難と言われているが、上流の険悪なゴルジュを巻けば何とかなりそうな内容。いつか機会があれば訪れたい。

そして今回、本当に久しぶりに足をやってしまった。沢の中では気を張っているので、こんな凡ミスはしない(やるとすればもっと大きな事故)のだが、登山道に出て少し気を抜いた途端これである。こういうしょうもない怪我は油断したときにやると分かっていたはずなのに、やってしまった。みんなに迷惑もかけ、大反省である。下山するまで気を抜いてはならないのだ。

盆休みまでに治りますように。