風前の灯火

個人的な沢登りの記録

苦土川井戸沢〜中ノ沢下降 2021/7/17

那須の井戸沢は4年前に遡行しているのだが、その内容についての記憶が何故かさっぱりと抜け落ちている。滝が全部登れて癒し系だったような記憶はなんとなくあるのだが、どこに車を停め、どんなアプローチで下山がどんなだったかということまでほとんど何も記憶がない。

そんな失った記憶を辿り、取り戻す旅。

 

3人パーティ 快晴

遡行グレード 2級下

8:00林道ゲート〜9:00入渓〜9:25滝15m〜10:00大滝18m〜11:45登山道〜12:30大峠〜昼食〜13:30峠沢渡渉点〜13:55中ノ沢出合〜15:10三斗小屋跡〜16:00林道ゲート

 

この週末は梅雨明け直後で快晴猛暑の予報だった。まだ今年は本格的な沢に行けてないので、どこか夏らしく水量があって開けた(+メンバーの希望で簡単な)沢へ行きたかった。しかし日曜に用事があるので日帰りで簡単な沢となると、あまり良い候補が出てこない。谷川方面を探すが一度行ったところへ行くのもなんだかなあと思い、万太郎支流の大ベタテ沢に決めかけていた。でもこんな晴れで猛暑予報の日にカラカラのスラブ登りなんてやりたくないので、他にないかと探し続けていた。すると同行メンバーの1人が「井戸沢は?」と提案してきた。

井戸沢か…4年前に行ってるんだよなあ…せっかく沢に行けるのに同じとこにまた行くのもなあ〜…と当初あまり乗り気ではなかったのだが、4年前の写真を見ていてもいまいち記憶が呼び覚まされない。よくよく思い出そうとしてもアプローチから下山に至るまでほぼ何も思い出せない。これは一体どうしたことか?写真には空が開けて明るい渓と、頭から水に濡れてはしゃいでいる過去の自分の姿が写っている。今週行きたい条件の沢としては申し分無さそうである。

記憶も全然ないし、中ノ沢を下降して下山という新要素も追加されたので、なんだか初めて行く沢のような気がしてきて、俄然やる気が出てきた。

 

そうして出発して、深山ダムの横の道路を林道に入っていく。なかなかの悪路で車高と四駆がないとつらいだろう。頑張って走って林道ゲートに着く。ゲート前に3台分くらいの駐車スペースがあった(翌朝には路肩にも車があり我々含め5台が停まっていた)。

通ってきたダムも、この悪路も、林道ゲートも全く記憶にない。木々の隙間から満天の星空が見えていた。

 

翌朝8時に出発。ゲートを乗り越え橋を渡って歩いていくが、やはり全く覚えていない。いくら歩けども懐かしいとかそういう感情が湧いてこない。しかも4年前の井戸沢のさらに3週間前には隣の大沢を遡行していたので、この林道を歩くのは今回で3回目なのだ。なのに本当に来たことあるのかというくらい何の郷愁もない。こんなことってあるのか?自分が少し怖くなる。

ずっと歩いていくと井戸沢出合直前で三斗小屋跡地が出現する。ここに至ってようやく出てきた見覚えのある景色。しかしそこを過ぎて特徴的な木造の堰堤を越え入渓すると、やはりその記憶はない。入渓点こんなショボかったっけというかんじである。まあそれはそうとやたら天気がいい。クソ暑いので早く水に入りたかった。

少し歩くとすぐに最初の滝15mが現れる。滝に微かな見覚えはあるが、どうやった越えたのか覚えてない。水流左を登ったような…しかし取り付いてみると左の角はホールドスタンスが何もなく無理。水流真ん中は段になっており登れそうに見えるが、結構勢いよく水が流れているしヌメリそうなので、当時の自分がこれをスイスイ登ったとは思えない。トポには左岸のリッジ状を登って巻くようなことが書いてある。その通りに登るが、あ〜こんなだったわ!とはやはりならない。

 

その後ほどなくしてまた大きめの滝。10mだったかな?ヌメリが強いが、水流左を笹を掴みながら簡単に登れる。

 

渓相は大変良い。樹林はあるが空は開け、水量も結構ある。今年はまだショボい沢しか行けてなかったので、久しぶりの夏らしい渓が嬉しくなる。

 

そして核心?の18m大滝。 取り付いているのは先行パーティ。

 

左が階段で難なく登れる。晴れわたる青天と水飛沫が最高に気持ちいい。

 

大滝を越え、小滝をいくつかこなすと急に見通しがすこぶるよくなる。向かう裏那須の山々の稜線まで見通せる。栃木の米子沢と呼ばれる所以はこの区間にあるのだろうか。

 

栃木の米子沢は少し言い過ぎな気もするが、すばらしい開放感である。

前回来た時はこの辺りガスでよく見えなかったことを思い出した。

 

この後沢は二俣に分かれて水量が半減し、徐々に源頭の雰囲気となる。 超暑いので頭から水をかぶりながら歩いた。 炎天下だが、涼しい風がずっと吹いていて、すごく爽快だった。

登ってきた沢を見下ろせる。

 

沢筋を忠実に詰め、最後5分くらい藪漕ぎをして終わる。藪漕ぎと言っても腰丈くらいの楽勝なやつ。

 

素晴らしく歩きやすい稜線を大峠まで下る。 トンボがこれでもかというくらいいた。大峠で昼飯を食って大休止。

 

昼休みの後、峠沢の徒渉点まで歩く。 前回はこの登山道を三斗小屋跡までひたすら歩いたことは朧気に覚えていた。 すぐに峠沢に着き、下降を開始する。峠沢は滝も何も無いゴロゴロした退屈な沢だった。これで林道まで2時間かとガッカリしかけたが、中ノ沢と出合うと水量が一気に増え渓相が変わる。ナメや迫力ある小滝、えぐれた側壁など、多少は目を楽しませてくれるようになる。

赤いナメに翠の水が映える。

 

想像以上にナメが続いていた。

 

えぐれた側壁。ここだけ異様にえぐれていた。

 

中ノ沢と合流してからしばらくは楽しいが、下流に向かうにつれ、まただんだん平凡になってくる。難所は一切無くひたすら歩いた。下流部はヌメリが強かった。 1時間半ほどで三斗小屋跡付近の林道に到着した。 ここからまた50分くらい林道歩きで終了。

 

幸ノ湯で汗を流し、アウトバースト&ポンタでステーキ300gを食って帰った(美味)。

幸ノ湯入口に鎮座していたモノ

 

前回遡行時の記憶をほとんど全て失って再訪した井戸沢だが、何故こんなに楽しい沢のことを忘れてしまったのだろうというくらい良い沢だった。アプローチと詰めと下山が少々長く、井戸沢本体が短すぎるのが玉に瑕だが、稜線は歩きやすく気持ちがいいし、ついでに中ノ沢下降を織り交ぜればそのマイナスも少し薄れた。

そして何より天気が良いというのは最高である。以前の記憶が無いのはきっと天気が悪かったからだということにした。今年初めて山で晴れたような気がするが、晴れてるときの沢の楽しさというものも思い出させてくれた、そんな沢行だった。