風前の灯火

個人的な沢登りの記録

【過去編①】黒部川赤木沢 2015/9/18-19

このブログは上ノ廊下遡行達成を機に書き始めたものだが、それ以前に行った沢登りの記録も今回から書いていこうと思う。

 

これまでに80本近くの沢を遡行した。探検部で沢登りを覚えてから上ノ廊下に行くまでの記録なので、当時の自分程度の経験と力量でも行ける3級くらいまでの沢が主体である。その中でも特に良かった沢、思い出深い沢をピックアップして書いていく。

 

さて、過去編の一本目は黒部の名高い癒し渓、赤木沢である。

この沢は学生時代に瀬戸内海の無人島で7日間原始人生活を送ってから直行した、初めての北アルプス、初めての沢中泊、慣れない重荷、雲海と夕陽、長い下山、夜霧と強風の寒さなど、学生の体力任せに特攻して色々経験した思い出深い沢だ。

赤木沢の記録など検索でいくらでも出てくるので、ぶっちゃけ記録としての価値は無いが、思い出話として書き留めておく。

 

4人パーティ

遡行グレード 2級上

1日目 9/18 晴れのち雨

8:30折立登山口出発〜13:00太郎平小屋〜15:00薬師沢小屋〜15:15入渓〜18:00赤木沢出合

 

広島から車を飛ばし前日に富山入り。無人島で1週間疑似遭難生活を送ってからの本来2泊3日の赤木沢を1泊2日の弾丸ツアーなので、今から考えると無茶な計画だなと思うが、そこは学生。体力が有り余っているのでどうにでもなるのだ。民宿に泊まって申し訳程度に英気を養い、折立まで移動していざ出発。

初めての北アルプスの勇壮な景観に俄然やる気も出る。

登り始めると9月下旬とはいえ樹林帯は暑くてたまらない。おまけに初めての沢泊で勝手が分からず、無駄に荷物を詰め込んだザックが肩に食い込み辛い。ひいひい言いながら登り13:00頃太郎平に到着。

f:id:ponzu613:20210609124408j:image
f:id:ponzu613:20210609124419j:image

 

薬師沢小屋に向けて再び歩き始めるが、天気が怪しくなってきた。
f:id:ponzu613:20210609124427j:image

 

薬師沢小屋に着く頃にはすっかり雨になっていた。小雨とはいえここは黒部川の本流。奥ノ廊下といえども増水は危険である。
f:id:ponzu613:20210609124405j:image

見たところそれほど増水はしていないようだ。日没まで時間もないので急いで支度して入渓。

本流は滝も泳ぎも無く水深もせいぜい膝下程度だが、流れは強く大岩がゴロゴロしており歩きにくい。水もかなり冷たい。

粛々と歩き続け、這々の体でどうにか日没前に赤木沢出合に辿り着いた頃には雨も弱まった。

右岸の高台に陣取り、テントを張ろうとしたのだが骨を忘れてきたことに気付く。仕方ないのでテントを布団のように被り、シュラフをベチャベチャにしながら不快極まりない夜を過ごした。

 

2日目 9/19 快晴

9:00赤木沢出合〜12:20大滝〜17:30北ノ俣岳〜23:00折立登山口

 

翌朝、9月下旬の北アルプスの朝は寒く、計画では7時出発としていたため一度起きたのだが、天気も悪いしとても沢に入る気にならない寒さだったので、また寝た。

再び目を覚ましたらなんと快晴になっている。川面が陽光を反射し輝いている。あたりには涼しい秋の風が吹き抜け、色づき始めた木々がサラサラと爽やかな音を立てて揺れている。

なんて美しい世界なんだ。ガイドブックに天国のようと書かれていたわけが分かる。 だがこの沢の美しさは文字通りまだまだ序の口であったことをこの後思い知る。

快晴の知らせでメンバーを叩き起こし、意気揚々と準備を済ませ朝からザブザブと入渓する。

f:id:ponzu613:20210609125358j:image

f:id:ponzu613:20210609125545j:image

秋の快晴の赤木沢は想像以上に美しかった。晴れているというだけで相当美しいのだが、紅葉がこれに輪を掛けて美しさを演出している。

f:id:ponzu613:20210609124457j:image

美しい!


f:id:ponzu613:20210609124507j:image

美しい!!


f:id:ponzu613:20210609124502j:image

なんて美しいんだ!!!


f:id:ponzu613:20210609124422j:image

景色に見惚れて全然歩が進まない!
f:id:ponzu613:20210609124545j:image
f:id:ponzu613:20210609124442j:image
f:id:ponzu613:20210609124524j:image
f:id:ponzu613:20210609124411j:image
f:id:ponzu613:20210609124357j:image
f:id:ponzu613:20210609124552j:image
f:id:ponzu613:20210609124352j:image
f:id:ponzu613:20210609124604j:image
f:id:ponzu613:20210609124446j:image


f:id:ponzu613:20210609124431j:image

我ながら無人島生活後とは思えないはしゃぎようで天国的なナメと小滝を越えていくと、この沢唯一の難所と言える40m大滝が現れた。

f:id:ponzu613:20210609124528j:image
f:id:ponzu613:20210609124451j:image


f:id:ponzu613:20210609124555j:image

ここは左岸のブッシュ帯を登り、落口へトラバースする。


f:id:ponzu613:20210609124512j:image

左岸登り中。


f:id:ponzu613:20210609124344j:image

トラバース中。ここだけちょっと怖かったのでフィックスで通過した。


f:id:ponzu613:20210609124533j:image

落口から。

 

大滝から先も快晴と紅葉と清廉な水が作り出す極楽浄土を心地よく進み、次第に詰めの様相を呈してくると、沢はそれまでの天国的渓相から両側からボサのかぶさるヤブ沢となってきた。


f:id:ponzu613:20210609124540j:image

それでも快晴に元気付けられイージーな藪漕ぎをこなしていくとやがて沢は枯れ、赤木岳まで続く急斜面となった。

赤木岳下のカールの草原も紅葉しており、見事な景観を見せてくれる。
f:id:ponzu613:20210609124549j:image
f:id:ponzu613:20210609124402j:image

 

ここは赤木沢の沢筋を山頂まで忠実に詰め上げるのが正解だが、山頂直下がガレの急斜面になっており、登るのが大変そうに見えた。その右に目をやると北ノ俣岳があり、そちらは傾斜が緩そうに見える。地形図で見ると右寄りに進路を取りながら赤木平を経由して北ノ俣岳を目指すルートが、等高線も緩く楽そうに思えた。
f:id:ponzu613:20210609124348j:image 

そうして大変な藪漕ぎをする羽目になり、結果大幅な時間ロスをすることになってしまった。

今となっては藪漕ぎトラバースは苦難の道、沢筋を行けるところまで詰めるのが一番楽と分かっているが、当時の我々にそんな知恵も経験もない。気付けば背後に宵闇が迫っていた。


f:id:ponzu613:20210609124415j:image

そしてどうにかこうにか山頂に辿り着いたとき、一面に広がる雲海と朱い夕陽が視界に飛び込んできた。

思わず歓声があがる。この夕陽と雲海を見られただけで、無駄に詰めを間違えて藪漕ぎして良かったと思えた。

f:id:ponzu613:20210609124559j:image

この山行の後にも雲海や夕陽など何度も見ることになるわけだが、今でもこの時のそれが一番心に残っている。

 

さて、感動していたら日は暮れた。ヘッドライトを点けて下山を開始するが、ガスが出てきて視界が悪い。おまけに風が強くなりめちゃくちゃ寒い。道をロストすると大変なので、ペースを落として慎重に歩いた。三角点を過ぎてからもぬかるみで滑りやすく、依然としてペースは上がらない。長いし辟易としてくる。さすがに疲れたし心が折れそうになったころ、木々の隙間から下界の明かりが見え、ひと頑張りでようやく登山口に戻ってきた。

着替えて車に乗り込み町を目指すが、この時間に有峰林道のゲートが開いているはずもなく、疲れた身体をさらにバキバキにして、窮屈な車中泊をしたのだった。

 

 

赤木沢はアプローチも長く、心揺さぶる登攀も泳ぎもない沢だが、こと渓相の美しさという点において右に出るものがなく、それが全てをカバーしている。私が行った時は紅葉の真っ盛りで、天気も良く、渓相を彩る要素に恵まれたというのもあるかもしれない。とにかくひたすらに綺麗だった。

 

まだ自分が行ったことのない山域には、これに劣らない、あるいはもっと美しい沢がごまんとあるのかもしれない。

この道はまだまだ飽き果てることがない。見てみたい景色、訪れたい大自然は尽きることがないだろう。老いても病んでも、身体が動く限り続けていきたいものだ。